どうも!好きなことを好きなだけやっているコスプレイヤー、綴喜明日香です!
本日は夏に短刀合宿をした時の、薬研藤四郎写真を上げていこうと思うのですが、あまりに滾りすぎて小説を1本書きあげてしまったので、よかったら並行して読んでくれると嬉しいです。
※女審神者がいます。
※薬研×女審神者表現があります。
※挿絵代わりにコス写真が入っています。
以上、宜しければ、下記どうぞ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
置き去られた刀
西暦2205年。歴史修正主義者による過去への攻撃が始まり、審神者によって呼び出された多くの刀の付喪神、刀剣男士たちが、審神者と共に歴史を駆けた。
それからどれほどの年月が経っただろうか。
ついに戦いは終わりをつげ、歴史修正主義者の撲滅と、歴史を守るという使命が全うされた。
前線基地であった本丸は解体を告げられ、苦楽を共にした審神者と刀剣男士たちは、喜びつつも別れを惜しむ形になった。
そんな彼らにかけられた、政府からの唯一の恩情。それが、「審神者は一振りのみ、現世へ戻る際に帯刀を許可する」というものだった。
*
祖母が亡くなった。突然の知らせだった。
祖母とは私の父方の祖母であり、東北の田舎の方に長いこと一人で暮らしていた。
早くに祖父を亡くし、女手一つで父と叔母を立派に育てた祖母は、愛情かけて二人を育ててくれたそうだが、東京から離れていることもあり、ここ何年も訪れることができていなかった。
知らせを聞いて父はしばらく呆然としていたが、長男としてきちんと葬儀まで背筋を伸ばして行った。
祖母の棺は多くの友人や隣人、そして私たち親戚一同に囲まれていた。1人1人、手に持った花を棺の中の祖母に手向ける。
最後、父が赤い紐を手に持った。それが一体何なのか後から父に聞いたが、父にもわからなかったらしい。ただ、祖母が最期まで大切に握りしめていたもので、こっそりと遺してあった遺言にも、その紐を共に埋葬してくれるようにと書いてあったのだそうだ。
父はその紐をしっかりと祖母の手に握らせ、ぐっとその手を一度握りしめてから、涙をこらえて手を離した。
葬儀後、そんな祖母の遺品整理のため、久々に祖母の家を訪れた。
古くなった家には幼かった父と叔母の思い出が詰まっており、父も叔母も嬉しそうにあちらこちらを覗いて回った。母と叔父も微笑みながらそれについていた。
私はというと、ちょっとした違和感を抱いていた。
誰かいる。そんな違和感。
父でも母でもない存在感。また、視線を感じるのだ。
もちろん私たち以外にはこの家にはいない。
祖母の寝室にいた時だ。ふとまた視線を感じ、そっと襖を開いた。すると、そこはただの押し入れではなく、階段があった。
上へと続く真っ暗な階段。どこか気味が悪かったが、好奇心の方が勝った。ぐっと唾を飲み込み、階段へ足をかける。
上にはちょっとした踊り場があり、二間の和室があった。閉じられたカーテンから、黄色くなった太陽光がかすかに漏れる。祖母が使っていたのだろう机とミシン、本棚が並んだ小さな和室。そしてそこから感じる、視線。
ドキドキと心臓が音を立てる。開いてはいけない。知ってはいけない。そんな言葉が頭をよぎる。それでも、私は部屋へ入った。
重ねられた布団。古くなった大きなひな人形。埃をかぶったスタンドライト。猫の爪で齧られたのだろう、傷だらけのふすま。
そんなふすまの隙間から、視線を感じる。間違いない。ここだ。
心臓がうるさい。息を殺しているのに、これではふすまの中の“何か”に気付かれる。胸をそっとおさえ、静まれ、静まれと念じながら、そろそろと息を吐いた。
そして、いっきにふすまを開いた。
………そこには、何もなかった。
毛布が数枚入っていて、それきり。奥の方に何かがあるのでは…と思い、ぐっと中を覗き込もうとしたとき、私を呼ぶ母の声がした。
はっと緊張の糸が切れた。たちまち私が今いる部屋が不気味な場所ではなくなり、温かみのある、祖母の存在感を感じるただの物置となった。
今まで私は何を一体怖がっていたのだろう。
はあい、と一つ大きな返事を返して、私はその場を離れた。
階段を降りるその瞬間、私を見つめるその視線に気づかずに。
―――あと少しだったのにな。
*
その本丸の初鍛刀は、薬研藤四郎だった。
彼は審神者と初期刀をよく支え、大きな刀が来るまではほかの短刀たちのいい兄貴分であった。短刀たちは彼を「薬研にぃ」とよく慕い、他の刀たちも初期に来た彼の実力と、深い知識に感服を覚えていた。
本丸解体の際、審神者が薬研藤四郎を現世に連れてゆくと言ったとき、反対するものは一人もいなかった。驚いたのは薬研藤四郎本刀だけである。仲間たちは銘々祝福の言葉を掛け、「当たり前だよ!」と自分のことのように喜んでいた。
実は、薬研藤四郎と彼らの審神者である人間の女性がほのかに想いあっていることは、本丸内の公然の秘密だった。知らぬは本人たちばかりなり。
この本丸内で恋仲となる事はなかったとしても、ともに行けばその可能性もある。本丸一同は小さな恋の成就を願いつつ、1人と一振りを笑顔で送り出そうと決めたのだった。
本丸最後の日。審神者は一振り一振り、仲間たちを刀解し、本霊のもとへ送り出した。
最後に残ったのは、初期刀である山姥切国広。
「主、今まで世話になった。」
審神者はとうとう涙をこらえきることができなかった。優しく微笑む彼の姿に、初日の、本当に出会ったばかりの彼の姿がよみがえる。
「薬研。主のことを、頼んだぞ」
「…ああ、任された。山姥切の旦那」
一言ずつ噛みしめるように言った山姥切の言葉に深く頷いて、薬研は初期刀への尊敬と感謝を込めて頭を垂れた。
涙を流しながらもしっかりと刀解のための祝詞を上げ、薄れゆく山姥切の姿に、審神者は絞り出すように言った。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
山姥切は、そっとほほ笑んだ。
全振りを刀解した後、現世へと繋がれたゲートへ向かいながら、薬研は審神者へ向き合った。
「薬研…?」
「大将。これからは大将と俺の二人きりだ。これからも変わらず守り続ける誓いとして、これを受け取ってほしい」
彼は胸にかけた赤い紐をそっとほどき、審神者へ差し出した。
それは薬研にとって、彼の想いを込めた守護でもあった。
審神者はその紐をそっと受け取り、ぎゅっと握りしめ、頷いた。
「これから先も、何があっても、ずっとそばにいてね」
薬研藤四郎は晴れやかに笑ったのだった。
*
ふと気が付くとそこは知らない小さな一軒家の客間だった。
綺麗に敷かれた畳、天井には神棚、その下に仏壇。静かで暗い、一間の和室。
「……大将?」
先ほどまですぐに隣にいたはずなのだ。なのに、姿が見えない。
胸がどうしようもなくざわついて、薬研はひたすら家の中を歩き回った。
居間、風呂、炊事場、階段の上の寝室、和室…どこにも彼女の姿は見えない。
必死に家を飛び出した。もしや外にいるのかもしれない。
良く晴れ渡った空。家の裏手にある畑と、小さな神社。そばを流れる小さな川。
やはり彼女の姿はなかった。
無心に川の中に入っていったところで、呆然と立ちすくんだ。
「……どうして…」
そんな彼の頭の中に、不意に聞きなれた管狐の声が聞こえた。
『薬研藤四郎様、審神者様のお供、ご苦労様です』
「こんのすけ…?こんのすけか!?今どこに…!?」
『政府からの最後の命を伝えるため、声だけをお届けしております。ご承知おきください。』
「最後の命…?」
告げられた言葉に、薬研は瞑目するしかなかった。
『審神者様と同行した刀剣男士様方には、審神者様の世界の“並行世界”にて、審神者様方に危害を加える歴史遡行軍の残党処理を命じます』
並行世界?並行世界だと…?
「どういうことだ!?大将の姿が見えないのは…」
『並行世界だからです。審神者様がいらっしゃる世界と貴方様がいらっしゃる世界は紙一重であって別世界。審神者様からも、貴方様からもお互いの姿は見えないはずですが、お守りすることは可能です』
雷に撃たれたような衝撃だった。
すっかり己は審神者の隣で、現世で、笑いあいながら過ごしていくものだと思っていたのだ。たとえ想いが通じなかろうと、共に、隣に…
『現世において刀剣男士は人間に干渉しすぎてはならないのです。だからこそ、こういった措置となりました』
騙された―――とっさにそう思った。だが、政府は言っていた。『現世に戻る際の帯刀を許可する』と。確かに彼は、審神者と共にゲートをくぐった。その瞬間は帯刀されていたのだ。
「……大将は、この世界とつながった場所にいるんだな」
『ええ、確かにいらっしゃいます』
「お互いに姿が見えないだけ…」
『そのとおりでございます』
彼はあまりにも冷静な刀であった。それこそ、審神者に信頼を寄せられる初鍛刀として。
一つ息を吐いて、彼は言った。
「わかった。拝命しよう」
『ありがとうございます。では、これにてわたくしからの通信も切らせていただきます。ご武運を』
ふつり、と気配が消えた。
正真正銘一人になったそのとき、彼は気が付いた。
胸元に常にかけていた、己の装束である赤い紐がない。そうだ、あれだけは、審神者の元に残ったのだ。
「ふふふ…ははは、ははははははは!!!」
彼は笑った。嬉しかった。あれだけでも彼女の手元に残ってくれたことが。と、同時にどうしようもなく悲しかった。そばにいられない事実が。笑うしかないほどに、苦しかった。
その笑声は最後には慟哭となり、川べりの崖に響き渡るのだった。
*
それからの日々をどう過ごしたのか、彼ははっきりとは覚えていない。ひたすらに家の中を、その周りを、彷徨っていたような気がする。
毎日が単調で、単純。刀剣男士は食事も必要なければ、風呂もなにも必要ない。ただそこにいることができるのだ。
ただ、歴史修正主義者の残党が現れた時は無心で倒した。守りたい、ただその一心で。
*
ある日、何かを感じた。
実に曖昧な感覚。言葉にするならそう、虚無感。
「ああ、ついに…」
きっと彼女が旅立ったのだ。それを彼女の手元に残した己の想いが伝えてきたのかもしれない。
そのとたん、彼にかけられた術式がふわりと解けた。審神者が死んだことで、彼の任も解かれたのだ。
彼は、彼女と同じ世界にいた。あんなにも焦がれた世界についに立っていたのだ。しかしそれも意味がない。なんといっても、彼女はもういないのだ。
彼の本体が隠された2階の一室に閉じこもっていた時、一台の車が庭に入ってきた。そこからは5人の人間が降りてきた。大人2人と1人の少女は、どこかに彼女の面影を残していた。
霊力があったなら彼らも薬研に気がつくかもしれない。
窓から彼らを見下ろしていた時、ふと少女と目が合った気がした。
―――あの子なら、もしかしたら。
そっと少女を見つめ続けた。寝室から、階段から、まるで導くかのように。こちらへ、こちらへおいで。そう、押し入れの奥深くに、大切そうにしまわれた薬研藤四郎本体の方へ……。
しかし。
少女はあと一歩というところで踵を返してしまった。その瞬間に彼女を取り巻いていた霊力がふつりと途絶える。
ああ、
―――あと少しだったのにな。
薬研藤四郎は、再び誰とも会いまみえることなく、空になったその家を守り続ける……。
ーーーーーーーーーーーーーー
お付き合い頂きまして、ありがとうございました。